2014年5月14日水曜日

流れ行く者

上橋菜穂子「流れ行く者」(新潮文庫、550円)
俺は上橋菜穂子の良い読者ではない。主要作品はすべて読んだが、文章が雑すぎだろ、とか、構成のバランス悪すぎだろ、などと、いつも勝手な文句ばかりつけていた。実際、今でも「獣の奏者」の闘蛇編・王獣編と「精霊の守り人」だけ読めば、まぁ活劇ファンには十分じゃないかという気がしないでもないが、守り人シリーズ番外編のこの中編表題作はマジに最高だった(本書には中編3本と掌編1本が収録されている)

上橋菜穂子の小説は児童文学賞を授与されたりすることもあるけれど、「流れ行く者」はそんな世界とは無縁である。ここには老いた者を蝕む病や若者の未熟さ、血腥い暴力や裏切りが蔓延し、そんな荒んだ無慈悲な世界に生きる人間への哀惜にみちた眼差しがある。そしてそれらのすべてが一つの物語に編み上げられている。素晴らしい!

ただ、この作品を味わうのは守り人シリーズを読んでからのほうが良いと思う。ストーリーや登場人物の記憶が必要なわけではない。本書は守り人シリーズの女主人公バルサの若き日のエピソード集なので、事前の知識は必要ない。でも、それでも、本編の物語を旅した時間の積み重ねがあるのとないのとでは読み応えが違ってくるのではないだろうか。