2015年11月6日金曜日

速度の魔術

ロベール・ブレッソン監督の遺作『ラルジャン』
これは1983年のフランス映画で、日本公開は1986年。まず間違いなく当時の東京で見たはずだが、見直したのはその時以来。個々のシーンもほとんど覚えてなかったし、新鮮に見ることができた。作品論はもう山ほど語られているだろうから書く気はない。でもまぁそれでもやっぱすげぇなと思うのは、限界ギリギリまで攻める映像の省略の話法と、登場人物たちの魅力。主人公イヴォン(クリスチャン・パテー)も良い感じだが、それ以上に、彼の妻エリーズ(キャロリーヌ・ラング)や刑務所を出所したイヴォンが世話になる老婦人(シルヴィ・ヴァン・デン・エルセン)も実に素晴らしい。息を呑むようなアウラを放っていた。リアルな演技というより俳優の存在そのものの鮮やかさを刻むような手捌きはブレッソン映画の真骨頂である。いちばん好きだったのは、老婦人が洗濯物を干すのをイヴォンが手伝うシーン。その後、すぐ惨殺しちゃうんだけどね。この青天の霹靂な描写というか人類の運命的な失墜の感覚というか、そういう物語論的な速度の魔術こそが『ラルジャン』の映像芸術というべきなんだろう。俺はここに20世紀映画の到達点の一つがあると思う。