2016年5月23日月曜日

おやすみプンプン

浅野いにお 著、小学館 刊、全13巻
『おやすみプンプン』ざっと読了。たとえば「父の不在」みたいなテーマは昔からあったが、この漫画は「父」だけでなく「母」までもが崩壊や喪失の危機にあるという物語だと思う。そして「子」は庇護者であるはずの母の愛を得ることなく、みずからの生のよるべなさに絶望する、という…ほんとにキツい話だった。

作品の醸しだすリアリズムという意味でも、現代の世相を強く反映していた。ただ、彼が世界観を立ち上げるアプローチ、家族関係の捻じれによって物語にリアリティや心理的な深さを与え、読者への感情的な訴求力を高めるやり方はとりたてて新しいものではないし、個人的には、あまり好きではない。

感情に対してあまりに無防備すぎるというか、「家族」という閉じた空間のなかで感情ばかりが肥大化し、その感情が生起した因果関係や構造的な細部が見え難くなってしまうからだ。いわば、感情表現そのものが感情の本質や真実を覆い隠してしまうのである。それはこの『おやすみプンプン』も例外ではないだろう。

だがしかし、この漫画には、そうした感情の肥大化が人間をモンスターに変えてしまうという新しい視点があり、だからこそ、とてもおもしろく読むことができた。いやむしろ、そのことへの危機感がこの作品のテーマだと言うべきかもしれない。漫画作品として優れた画力を見せながら、主人公とその家族のみを粗雑なイラストのように描き続けたことの試みは、読者の感情移入を一部制限し、人間の悪魔性を客観視させるのに抜群の効果をもたらしたと思う。

あと蛇足だが、プンプンに絡んだ漫画家の女の話はあんまり上手く機能してなかった気がする。特に終盤「事件」が起こってから、三つのストーリーラインを同時進行させるのは、物語を単にガチャガチャさせてしまうだけのように感じた。

さらに蛇足の蛇足を言うと、鹿児島への逃避行は、ちょっと成瀬巳喜男の『浮き雲』を思わせるようでもあり、とても良かったので、もっとストーリーを整理し、旅をダラダラ長引かせ、愛と生と死のドロドロを読んでみたいと思った。