2017年4月9日日曜日

シリア問題への視座

Carlos_Latuff
シリア問題に関する内藤正典先生のツイートをまとめました(2017年4月9日13時30分現在、句読点や改行などは整理しています)

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シリア問題の最も重要なところは、繰り返しになりますが、膨大な犠牲者の存在。命を奪われた市民と、家や家族を奪われて隣国やヨーロッパにまで逃れた難民。この最悪の人道危機をどう解決するかに触れず、ロシアや米国の武力行使の是非を論じてもあまりに本質からそれるだけ。今回の米国の武力行使は、当然のことながら、我々の隣国、北朝鮮の問題にも深い影を落としています。突然、遠くのシリアの話が、日本の問題になってくるのです。プレイヤーになるのか、ならないのか?なるとしたら、どのようにコミットするのか?世界を知らないと判断を誤ることだけは確実です。

日本のメディア、ニュースや情報系番組が、シリア問題を取り上げるのはいいのですが、直近の化学兵器使用と米国の反撃だけを切り取って、善か悪かを議論するのは、とんでもなく実態とかけ離れた空論になります。なぜなら、アサド政権は化学兵器など使っていないと主張しロシアもそれをなぞっているのに対して、米国は「巡行ミサイル攻撃をした」と明言しています。そうなると、化学兵器については真相不明、米国の攻撃は明々白々となりますから、シリアやロシアを非難する声は消極的、米国を非難する声は加速されます。その影で、難民達の声は誰が伝えてくれるのでしょうか?

すでにヨーロッパでは、彼等は難民なんかではなく金儲け目当ての偽装難民だと公言する政党や組織が力を持っています。そういう人が難民の奔流に合流したことは事実です。しかし、隣国トルコ、レバノンなどに滞留する500万人以上の人達は、では、何者でしょうか?日本政府の援助機関であるJICAでさえ、トルコやレバノンに逃れた人々が、何から逃れたかを、真剣に見ようとしません。難民支援は政治から距離を置くからです。しかし、その政治的中立こそ、アサド政権やロシアの思惑通りとなります。シリア政府は難民を装ってヨルダンやレバノンに息のかかった人間を送り込みます。シリアの惨状が反政府側の「テロ」によると6年間主張し続け、日本の援助団体やメディアを洗脳しました。膨大な難民がいながら、彼らがアサド政権の攻撃の犠牲者でありながら、巧妙にその声を封じたのです。しかし、それをアサド政権の「嘘」と言ってみたところで、何の役にも立ちません。

シリアという国、第一次大戦時に英仏が勝手に引いた国境線の内側に、多数の民族や宗教、宗派が押し込められました。1946年に独立した後、国家統合は困難を極めました。少数派のアラウィーに属するアサドが政権を掌握し、多数を占めるスンナ派を抑え込み、クルド、アラブ、トルクメン、アルメニア、ドルーズ等の民族、スンナ派、シーア派、アラウィー、キリスト教ではシリア正教、アルメニア正教、カトリック、正教会等々の人達を統御しなければ国家の統合はできませんでした。アサド政権が恐ろしく強権的で逆らう者に容赦しないのは、これだけアイデンティティの異なる集団を統御するため必要だったからです。さらにダマスカスやアレッポは3000年以上の都市文明を育んだ都市であり、その中に生きる名望家、土地と結び付いた豪族、彼らの利害を調整する必要もありました。ダマスカスやアレッポの上を、何十という支配者が通り過ぎて行きましたが、都市社会そのものは独自の性格を維持し生き残ったのです。

第二次大戦後の冷戦時代の後半、アサド政権はソ連の庇護下に入り、ソ連を徹底して利用することでイスラエルや米国から守ろうとしました。しかし、一部のインテリを除けば、そもそもスンナ派ムスリムが多数を占めるシリアで社会主義は人を引きつけませんし、何よりシリア人は民族や宗派を問わず商人です。アサド政権は逆らわない限り経済活動の自由を認め、40年にわたり統治に成功したのです。