2017年5月24日水曜日

プロテスタンティズム

深井智朗 著、中公新書、800円+税
中世以来のキリスト教の宗教改革について、とても興味深く読んだ。宗教改革の歴史は政治改革の歴史でもあるという視点がその基底にあるのだろう。たとえば、第6章の「保守主義としてのプロテスタンティズム」など、現代ドイツ政治への見事な注釈となっている。

戦後ドイツのプロテスタンティズムは、単なる宗派の独善的な優位性の主張ではなく、多宗派共存のためのシステム構築の努力を続けた。プロテスタントとは、カトリシズムとの戦いを続け、その独自性を排他的に主張してきた宗派であるだけではなく、複数化した宗派の中で、共存の可能性を絶えず考え続けてきた宗派であり、むしろ、後者が私たちの今後の生き方だと主張するようになった。[中略]今日、プロテスタンティズムを保守と呼ぶ場合、それは[中略]異なる立場との共存というもう一つの自らの宗教的伝統のみならず、ルター以来の政治と宗教の作法を逸脱するような勢力の活動や発言に対して「否」を言うという意味でである。2016年にドイツ社会が難民問題で揺れ動き、並行して極右勢力の排他的で不寛容な政策が力を持つかに思えた時に、ルター派の牧師の娘として生まれた、キリスト教民主同盟のアンゲラ・メルケル(1954−)ドイツ連邦共和国第8代首相が、その動きを強く否定したのは、このことと深く関係している。

ここで言及されたメルケルの政治姿勢は、極東日本から見ると、ほとんどリベラルの主張ど真ん中にしか見えず、なんかすげぇと驚くしかなかったので、本書の考察になるほどなぁと唸った。16世紀以来の宗教改革の伝統があってこその、かぎりなくリベラルに近い保守主義といえるのではないだろうか。宗教改革恐るべし。

2017年5月22日月曜日

共感の物語を超えて

はたらいたさるの話(作・演出:池田美樹)
それにしても、なんでみんな「共感の物語」がそんなに好きなんだ?孤独が恐い?最近はセックスレス社会で、だから、セックスを正当化する「愛の物語」から〈性〉を差し引き「共感の物語」にシフトしてるってことなのか?でも、さすがに食傷気味。ざっくりいって、30歳代の劇作家なんてみんな共感の物語ばっかり書いているように思える。そんなことない?20代はまた微妙になんとなく違うような気がする。もう少し強引な、感じ?だから、世代の差かな?と思ったりもするが、50代の俺は、別に、他人のことなんて、わかろうがわかるまいが、そんなのどうでも良いじゃん、という感覚なのだ。そういや「しらけ世代」なんて、昔は言われたしな。でも、人が嫌いなわけじゃない。むしろ好き、俺はね。40代のことは、知らん(笑)そこで、劇団きららの『はたらいたさるの話』が感動的なのは、俺と同世代、50代の作家的感性ということではなくて…いやまぁ、なんというか、共感しても良いし、しなくても良いしっていう、その懐の深さだったように思う。わかんないけどさ、奴といっしょにいたら楽しいし、いっしょにいなくても、元気でいるよっていうだけでも嬉しい。そういう「人の存在」ってものに対する愛情や信頼感。すばらしかった。

2017年5月10日水曜日

フレームで考える

海街diary 8「恋と巡礼」より
写真や映画や漫画の話法に共通するのはフレーム表現の重要性である。何かを表現するためにフレームを巧みに使うというよりも、フレームでしか表現できないやり方によって何かを発見すること、の悦び。なんの変哲もない行為や行動を、ひいては物語そのものを、さりげなくも新鮮に見せてくれる。こういうのが、ほんとうに好き。大好き。

2017年5月8日月曜日

角矢甚治郎の眼鏡

つい先日、なにかの拍子に、眼鏡の腕をボキッと折ってしまった。もう10年以上愛用しているものだ。10年というのは、要するに、いつ買ったのか覚えてないほど昔、という意味でもある。なので、あちこち劣化するのも無理はない。その場はアロンアルファで凌いだものの、新しい眼鏡を探し始めた。基本、いつも同じものを使うので、あまり個性的なデザインにするつもりはない。今回も同じスタイルで探したが、意外にフィットしたものが見つからない。もし、今までと同じフレームがあったら、迷わずそれにしただろう。そんなこんなで、微妙に妥協しつつこの日本製に決めた。これを着けて親しい人に会っても、新調したことに気付かないかも。だが、自分的には、かなーり違うのだ。ま、地味男にはそれくらいがちょうど良いのかもしれん。

2017年5月1日月曜日

ムーンライト

監督:バリー・ジェンキンス、出演:トレヴァンテ・ローズ ほか
全体が3部に分かれていて、第1部と第2部ではさほど乗れたとは言い難かった。カメラ微妙に寄りすぎ!動きも派手すぎ!と、要は、物語に対して映像文体が先走っているという印象もあったのだが、第3部で一気に乗れた。そこはもう、まさにメロドラマの世界。映画的なリズムと映画的な時間に満ち満ちていて、Moonlightと呼ぶのも当然だろう、成瀬巳喜男の映画を彷彿させるのだ!ただし、その主役は黒人男性二人である。映画としての完成度は『キャロル』のほうが上かもしれないけれど(同性愛をテーマにしたという意味で比べるとね)、『ムーンライト』にみなぎる、なんというか本気度に胸打たれた。素晴らしい。見て良かった。あと、第1部でヤクの売人を演じたマハーシャラ・アリが抜群に魅力的だった。この映画、絶対に彼が中心で話が進むんだろうと思ったので、そこはちょっと残念だったかなぁ。